擬似環境の向こう側

(旧brighthelmerの日記) 学問や政治、コミュニケーションに関する思いつきを記録しているブログです。堅苦しい話が苦手な人には雑想カテゴリーの記事がおすすめです。

社会

戦没者を弔うことの意味について

安部首相の靖国神社参拝が波紋を広げている。 ぼく個人としては止めておけばよかったのにと思っているが、それはとりあえず措く。また、戦没者の弔いにあたって靖国という場は本当にふさわしいのか、政治問題化したのは誰のせいかを論じたいのでもない。そう…

リベラルなナショナリストに勝ち目はあるか

前回のエントリが意外なことに結構多くのブックマークを集めた。ブックマークのなかには「リベラル・ナショナリズム」について言及しているものもある。そこで、このエントリではリベラルなナショナリズムを取り上げてみたい。 …のだが、まずはぼくの個人的…

リベラルのことばが届かない

ネット上では「サヨク」や「リベラル」を嘲笑し、罵倒する言葉に溢れている。 そもそも、誰が「サヨク」で誰が「リベラル」なのか、いまいちはっきりしないのだが、たとえば『朝日新聞』でよく見るような意見の持ち主を指すと考えていいんじゃないかと思う。…

郊外の風景と民主主義

郊外の風景 ぼくは大都市の郊外で育った。いまから何十年も前の話だ。 ちょうどぼくが生まれる直前ぐらいに大規模な集合住宅が建設され、多くの若いファミリーが引っ越してきた。それ以外にも多くの若いファミリーが暮らしており、当然、ぼくと同世代の子ど…

「責任者は責任を取るためにいる」

(ツイートのまとめ+加筆) 責任者は責任を取れる立場にいるのか? 「責任者は責任を取るためにいる」という言葉がある。 これは、責任を取るべき立場にありながら、そこから逃げ出そうとする人を批判する言葉として解釈できる。「責任者はお前だろうが!」…

知識人の消滅

(過去ツイートの再編集) 國分功一郎さんと麻木久仁子さんの対談記事に気になる箇所があった。 (麻木さんの発言)特に学者さん、知識人階級の人たちね。まず最近の知識人は、遠慮してるのか謙遜してるのか知らないけど、自分たちが知識人階級だっていうこ…

プライドとしてのオリエンタリズム

NHKスペシャル“アジアの一等国”の番組内容をめぐって賠償判決が下されたようだ。番組内で名誉毀損、NHKに賠償命令 台湾統治の検証 東京高裁 残念なことに、ぼくはこの番組を見ていない。なので、断片的な情報しかないのだが、この問題は結局のところ「オ…

何がリフレ政策を実現したのか

日銀をめぐるネット論争 ネットではかなり前から「リフレ政策」の是非が語られ、時として論争が発生してきた。なかでも、ぼくにとって印象深いのが、匿名官僚ブロガーであったbewaadさんという人の主張をめぐって2010年ごろに起きた論争だ。 bewaadさんのブ…

「在日」とは、在日の人たちのことではない

今朝の『朝日新聞』に在特会関係の記事が掲載された。そのなかで、反在日デモに参加している女性のことが紹介されている。 韓流ドラマに親しむ「ふつうのOL」だったという。昨年夏、韓国大統領の竹島上陸と天皇謝罪要求に衝撃を受け、ネットで関係記事を検…

ポジティブ・フィードバックの誘惑

「表現の自由」はなぜ必要か 昔、ぼくがまだ大学院生だったころ。大学のゼミで「表現の自由」はなぜ必要なのかを議論したことがあった。 ぼくは「表現の自由」や「言論の自由」は基本的人権の一部であり、それは不可侵だと主張した。しかし、たとえば戦争な…

「悪い変化」は海の向こうからやって来る

当たり前の話だが、社会というものは変化していく。日々の生活や仕事は時代と共に変わっていくし、犯罪が増えたり減ったりする。男性が草食系になったり、女性が肉食系になったりすることもあるかもしれない。少しずつ変わっていくこともあれば、急にガラリ…

申し訳ありませんでした。

先日アップしたエントリに重大なミスが含まれていたので削除した。偏見を助長するようなエントリを書いてしまったことを痛烈に反省している。本当に申し訳ありませんでした。 問題があったのは以下の部分だ。 2012年度の犯罪白書によれば、2011年の一般刑法…

『災害ユートピア』と『ショック・ドクトリン』

ささやかな「災害ユートピア」 今から10年ほど前の話だ。 当時、ぼくは5軒続きの2階建長屋に住んでいた。新築だったので住民は我が家と同様に若い夫婦が多かった。しかし、まだ子どもがいなかったぼくらに近所づきあいなるものは存在しなかった。 あるとき、…

「反日分子」からの挨拶

ジョージ・オーウェルの小説『動物農場』のあとがきには、「英国ファシスト連盟(BUF)」のリーダー、オズワルド・モズリーをめぐる顛末が書かれている(モズリーの主張については、以前、このエントリで紹介した)。第二次世界大戦が勃発すると、英国政府は…

カテゴリーの政治

階級政治の終焉 人間というのは、いろいろなカテゴリーをつくる。民族、人種、身分、階級、ジェンダー、エトセトラエトセトラ。そして、このカテゴリーは政治を動かすうえで重要な役割を果たしてきた。身分制度に基づいて統治をしたり、民族ごとに国家を作っ…

「日本が嫌いなら日本から出て行け」の背後にあるもの

「社会で通用しない」の「社会」とは 以前、大学の同期と飲んでいたときの話。 外資系の企業に転職したばかりの奴の話をみんなで聞いていた。社内での立ち振舞いや給料の査定の話など、なかなかにシビアだ。大学のような浮世離れしたところで勤めているぼく…

1964年のオリンピック

(ツイートに加筆) 言わないと誰も気づかないかもしれないのでいちおう言っておくと、タイトルは村上春樹『1973年のピンボール』からのパクリだ。ちょっとしか合ってねえ。 さて、2020年に東京でオリンピックが開催されることになった。まあ、やることが決…

自由な監視社会

前回のエントリでは「監視社会」について述べた。 ただ、監視社会というと、イコール自由のない社会だと解釈されてしまうことがありうるので、やや意味が強すぎるようにも思う。実際には、監視社会=自由のない社会、ではない。 この点を理解するうえで、前…

炎上と監視社会

9月になり、多くの学校では夏休みが終わった。 この夏を振り返ると、なんというかブログの炎上が多かった。学生が学校に戻り、下らない写真をアップする暇もなくなれば炎上も減っていくかもしれない。 それは措くとして、すでに数多く指摘されているように…

文化輸入のエージェント

いま、イギリスでは(ロンドンでは、のほうが正確かも)日本食ブームだ。 アニメとかマンガについては言うほど人気でもないと思うが、日本食に関してはかなり熱い。以前、回転寿司が流行ったことがあったが、いま熱いのは弁当屋である。日本風の弁当を扱う店…

太宰メソッドとしての教育

(ツイートの加筆・修正) 数年前の話だ。 ある同僚の教員と一緒に帰宅していたとき、「授業ではさんざん企業の批判をしておきながら、学生がいざ就職活動の時期を迎えると、手のひらを返したように就活を応援することの自己矛盾」についての話になった。た…

介護デモクラシーの出現

日本が抱える大きな問題の一つは少子高齢化だ。人口が減少していくこと自体には賛否はあるものの、人口バランスが大きく崩れることはやはり問題だろう。 たとえば、国立社会保障・人口問題研究所の予測値によれば、2040年の人口ピラミッドはこんな感じになる…

「愛国者」と「売国奴」

「愛国者」とは誰のことか? ネットでその筋の人の書き込みを見ていると「愛国」とか「売国奴」とかいう言葉によく出くわす。「愛国」はまだしも「売国奴」は嫌な言葉だなあと思う。 そもそも、誰が愛国者で誰が売国奴かというのは、ほとんどの場合、自分の…

民主主義の黄昏

ネットでは麻生さんの「失言」が話題だ。たとえ発言を文字起こししたものを読んだところで、麻生さんが何を言いたかったのかは結局よく分からないのではないかという印象がある。 それはさておき、麻生さんの発言をきっかけとしてワイマール憲法やナチス、全…

「学問のひと」と政治(追記あり)

学問は「私が一番正しい」ことを明らかにする 世の中には、同じ領域であってもまったく見解が異なる学問的立場というものが存在する。経済学は素人なので、確たることは言えないのだが、いわゆる近代経済学とマルクス主義経済学というのがそれに該当するので…

「ナショナリズム批判」というナショナリズム

むかしから、愛国心(patriotism)とナショナリズム(nationalism)はまったく違うものだとよく言われる。たとえば、ジャーナリストにして小説『1984年』や『動物農場』を書いたジョージ・オーウェルは、愛国心について次のように述べている。 「自分では世…

絶望から始まるマーケティング

マーケティングというものは、一種の絶望から始まるのではないだろうか。 他人が何を面白がるのかがわからない 何かを作る人間にとっての夢は、自分の作品や商品が万人に受け入れられることだろう。けれども、現実は甘くない。自分が「良い」とか「面白い」…

「反韓」と「嫌韓」、そして「日本が好き」

「反韓」と「嫌韓」はどこが違うのか 反韓感情について調べているうちに、「反韓」と「嫌韓」は違うのだという説明を見つけた。この二つの違いなど考えたこともなかったので、なかなかに新鮮な発見だ。 反韓(はんかん、英: Anti-South Korean)とは、政治的…

流れ図で考える歴史認識論争

果てしなく続く「歴史認識論争」 日本にインターネットが普及し始めた1990年代後半から、ネット上では第二次世界大戦時の歴史認識をめぐる論争が繰り返されてきた。それから10年以上経った今も、状況はたいして変わっていない。もしかすると、あと100年ぐら…

「ネット右翼が増えたのはリベラル左翼のせい」という主張について

ものすごく長いので先に結論。「ネット右翼が増えたのはリベラル左翼のせい」という主張を受け入れるのなら、「リベラル左翼」は西村眞悟氏を支持すべきである。以下、本題。 「ネット右翼が増えたのはリベラル左翼のせい」という主張をさいきんよく見かける…