擬似環境の向こう側

(旧brighthelmerの日記) 学問や政治、コミュニケーションに関する思いつきを記録しているブログです。堅苦しい話が苦手な人には雑想カテゴリーの記事がおすすめです。

2013-01-01から1年間の記事一覧

今年を振り返る

さて、今年もいよいよ終わりである。 去年から始めたこのブログ。去年の投稿数が9本だったのに対して、今年はこれまでで86本。なんでこんなことになったのかと言えば、在外研究に出たおかげで時間的に余裕ができたからでもある。なので、帰国したらこうはい…

戦没者を弔うことの意味について

安部首相の靖国神社参拝が波紋を広げている。 ぼく個人としては止めておけばよかったのにと思っているが、それはとりあえず措く。また、戦没者の弔いにあたって靖国という場は本当にふさわしいのか、政治問題化したのは誰のせいかを論じたいのでもない。そう…

リベラルなナショナリストに勝ち目はあるか

前回のエントリが意外なことに結構多くのブックマークを集めた。ブックマークのなかには「リベラル・ナショナリズム」について言及しているものもある。そこで、このエントリではリベラルなナショナリズムを取り上げてみたい。 …のだが、まずはぼくの個人的…

リベラルのことばが届かない

ネット上では「サヨク」や「リベラル」を嘲笑し、罵倒する言葉に溢れている。 そもそも、誰が「サヨク」で誰が「リベラル」なのか、いまいちはっきりしないのだが、たとえば『朝日新聞』でよく見るような意見の持ち主を指すと考えていいんじゃないかと思う。…

マスコミに騙される日本人?

ロンドンで迎える初めてのクリスマス。だがあいにくの嵐で外出する気にもならない。というわけで、先日の「第三者効果」に関するツイートのまとめ(+加筆修正)だ。 第三者効果とは何か マスメディアの第三者効果仮説については以前から時々ツイートしてい…

郊外の風景と民主主義

郊外の風景 ぼくは大都市の郊外で育った。いまから何十年も前の話だ。 ちょうどぼくが生まれる直前ぐらいに大規模な集合住宅が建設され、多くの若いファミリーが引っ越してきた。それ以外にも多くの若いファミリーが暮らしており、当然、ぼくと同世代の子ど…

批判の流儀

ネット上では誰かを批判したり罵倒したり揶揄したりということが盛んに行われている。他人の考え方が気に食わないのか、間違いを正したいのか、それとも単に相手よりも自分のほうが知的に優れていることをアピールしたいのか…。その理由はともかく、誰かを批…

「責任者は責任を取るためにいる」

(ツイートのまとめ+加筆) 責任者は責任を取れる立場にいるのか? 「責任者は責任を取るためにいる」という言葉がある。 これは、責任を取るべき立場にありながら、そこから逃げ出そうとする人を批判する言葉として解釈できる。「責任者はお前だろうが!」…

知識人の消滅

(過去ツイートの再編集) 國分功一郎さんと麻木久仁子さんの対談記事に気になる箇所があった。 (麻木さんの発言)特に学者さん、知識人階級の人たちね。まず最近の知識人は、遠慮してるのか謙遜してるのか知らないけど、自分たちが知識人階級だっていうこ…

物語は人を追い詰めるのか

『おおかみこどもの雨と雪』をめぐって いきなりで恐縮なのだが、『おおかみこどもの雨と雪』の話だ。何でも12月20日に日テレで放送されるらしい。 この映画が劇場で上映されたさい、以下のブログのエントリが話題になったことがあった。コメント欄を見ても…

プライドとしてのオリエンタリズム

NHKスペシャル“アジアの一等国”の番組内容をめぐって賠償判決が下されたようだ。番組内で名誉毀損、NHKに賠償命令 台湾統治の検証 東京高裁 残念なことに、ぼくはこの番組を見ていない。なので、断片的な情報しかないのだが、この問題は結局のところ「オ…

何がリフレ政策を実現したのか

日銀をめぐるネット論争 ネットではかなり前から「リフレ政策」の是非が語られ、時として論争が発生してきた。なかでも、ぼくにとって印象深いのが、匿名官僚ブロガーであったbewaadさんという人の主張をめぐって2010年ごろに起きた論争だ。 bewaadさんのブ…

「在日」とは、在日の人たちのことではない

今朝の『朝日新聞』に在特会関係の記事が掲載された。そのなかで、反在日デモに参加している女性のことが紹介されている。 韓流ドラマに親しむ「ふつうのOL」だったという。昨年夏、韓国大統領の竹島上陸と天皇謝罪要求に衝撃を受け、ネットで関係記事を検…

直接性の願望

ネットは便利だ。 何か知りたいことがあればググればいいし、誰かとつながりたければSNSを使えばいい。その気になれば地球の裏側で起きているニュースも知ることができるし、見ず知らずの人にメッセージを投げることもできる。 だが、ネットを使うほどに、あ…

ポジティブ・フィードバックの誘惑

「表現の自由」はなぜ必要か 昔、ぼくがまだ大学院生だったころ。大学のゼミで「表現の自由」はなぜ必要なのかを議論したことがあった。 ぼくは「表現の自由」や「言論の自由」は基本的人権の一部であり、それは不可侵だと主張した。しかし、たとえば戦争な…

「悪い変化」は海の向こうからやって来る

当たり前の話だが、社会というものは変化していく。日々の生活や仕事は時代と共に変わっていくし、犯罪が増えたり減ったりする。男性が草食系になったり、女性が肉食系になったりすることもあるかもしれない。少しずつ変わっていくこともあれば、急にガラリ…

ハーフ・アフェー・デイ

今日、イギリスでのぼくの受け入れ先の大学に行ってきた。ハーフ・アフェー・デーなる教員の会合があるというので、顔を出そうと思ったのだ。 「受け入れ先」と言っても、完全に放置されている状態なので、他の教員と顔を合わせるのは実質的に今日が初めてで…

申し訳ありませんでした。

先日アップしたエントリに重大なミスが含まれていたので削除した。偏見を助長するようなエントリを書いてしまったことを痛烈に反省している。本当に申し訳ありませんでした。 問題があったのは以下の部分だ。 2012年度の犯罪白書によれば、2011年の一般刑法…

ロンドンの美味しいもの

気づけば、ロンドンに来てからもう半年以上経った。そこで、この半年でぼくが「美味しい」と思ったもの&店をいくつか紹介したい。たしかにロンドンでは食事でがっかりすることが少なくない。しかし、その一方で美味しいと思えるものもあるにはある。たとえ…

『災害ユートピア』と『ショック・ドクトリン』

ささやかな「災害ユートピア」 今から10年ほど前の話だ。 当時、ぼくは5軒続きの2階建長屋に住んでいた。新築だったので住民は我が家と同様に若い夫婦が多かった。しかし、まだ子どもがいなかったぼくらに近所づきあいなるものは存在しなかった。 あるとき、…

受験RPGの思い出

(昔のツイートのサルベージ+加筆) ぼくが高校3年生のときのことだ。 さすがにそろそろ大学受験の準備をせねば、という状況になった。だが、先日のエントリでも書いたように、当時のぼくは勉強をするための方法がいまいちよくわかっていなかった。机に向…

「反日分子」からの挨拶

ジョージ・オーウェルの小説『動物農場』のあとがきには、「英国ファシスト連盟(BUF)」のリーダー、オズワルド・モズリーをめぐる顛末が書かれている(モズリーの主張については、以前、このエントリで紹介した)。第二次世界大戦が勃発すると、英国政府は…

教室という場所

ぼくは自分で勉強ができない高校生だった。 自室で勉強していても、10分から15分で限界がくる。気がつけばマンガを読み始め、テレビを見て、ゲームをしてしまう。意志の力で耐えようとしても、すぐに限界がきてしまう。 そういうしているうちに大学受験のシ…

消費税増税は「マスコミのせい」か?

マスコミによる消費税増税キャンペーン? 少し時期を逸したが、消費税の増税が安倍首相によって正式に表明された。 これを受けて、どういう理路なのかはいまいち定かではないのだが、増税に反対する人たちから「マスコミが悪い」という声が上がっている。ど…

失礼なコミュニケーションへの憧れ

文化的親密圏とは何ぞや? 文化人類学者のマイケル・ヘルツフェルドは、『文化的親密圏』という著作のなかで次のようなエピソードを紹介している(1)。 2000年代のタイ、バンコクでは「アジアのシャンゼリゼ通り」を実現するべく、古い街路の再開発が進めら…

領域横断的研究の憂鬱

ツイッターで書こうと思ったのだが、長くなってきたのでブログで書くことにする。 ぼくがまだ駆け出しの研究者だったころ、ある先生が次のようなことを言っていた。 「研究者(執筆家)には、新しいアイデアをぽんぽん出していくタイプと、既存の発想とその…

二つの自己責任論(追記あり)

日本では自動車に乗るさい、シートベルトの着用を義務づけられている。近年では後部座席に座るさいにも義務づけられるようになった。 考え方によっては、これは非常にお節介な話である。シートベルトをするかしないかというのは基本的に個人の選択の問題であ…

カテゴリーの政治

階級政治の終焉 人間というのは、いろいろなカテゴリーをつくる。民族、人種、身分、階級、ジェンダー、エトセトラエトセトラ。そして、このカテゴリーは政治を動かすうえで重要な役割を果たしてきた。身分制度に基づいて統治をしたり、民族ごとに国家を作っ…

「繊細チンピラ」考

先日、このサイトで「繊細チンピラ」という言葉が用いられ、またたく間にネットの流行語になった。たとえば、このエントリやこの話に対して、さっそく「繊細チンピラ」という言葉が用いられている。正直、あまり感心しない表現ではあるが、以下ではこの言葉…

何が差別語であるかを決めるのか

今朝のメトロの一面は差別表現に関する記事だった。 イギリスのキャメロン首相が、サッカーチームのTottenham Hotspurのサポーターは”Yids”という言葉を使っても良いのではないかとコメントしたという内容だ。”Yids”というのは、ユダヤ人のことを指すが、発…