擬似環境の向こう側

(旧brighthelmerの日記) 学問や政治、コミュニケーションに関する思いつきを記録しているブログです。堅苦しい話が苦手な人には雑想カテゴリーの記事がおすすめです。

2013-01-01から1年間の記事一覧

ヘイトスピーチに寛容な言説空間の誕生(加筆)

(5月のエントリに補足をしたので再投稿) 長いので要約 ① 「表現の自由」を維持するためには、社会を構成する一人ひとりが不快な表現に耐えることが必要だが、生存を脅かすような表現を向けられている人たちにまでそれを要求することはできない。② ネット…

「階級小説」としてのハリー・ポッター

小説や映画もずっと前に完結したハリー・ポッターについて、なんで今さら書くのか。はっきり言って特に理由はない。あえて言えば、今日読んでた論文に“scrounger”という単語が出てきて、「ああ、これハリポタでも出てきたなあ」と思いだしたというのが最大の…

「日本が嫌いなら日本から出て行け」の背後にあるもの

「社会で通用しない」の「社会」とは 以前、大学の同期と飲んでいたときの話。 外資系の企業に転職したばかりの奴の話をみんなで聞いていた。社内での立ち振舞いや給料の査定の話など、なかなかにシビアだ。大学のような浮世離れしたところで勤めているぼく…

1964年のオリンピック

(ツイートに加筆) 言わないと誰も気づかないかもしれないのでいちおう言っておくと、タイトルは村上春樹『1973年のピンボール』からのパクリだ。ちょっとしか合ってねえ。 さて、2020年に東京でオリンピックが開催されることになった。まあ、やることが決…

飲み会と盛り上がり

ずっと昔、ぼくがまだ大学生だったころの話。 ぼくは、あるサークルに入っていた。居心地は良かった。女の子も多く、中学や高校時代には失われていた青春を取りもどしたかのような感覚すらあった。付き合っていたわけではなかったが、初めて女の子と二人で喫…

自由な監視社会

前回のエントリでは「監視社会」について述べた。 ただ、監視社会というと、イコール自由のない社会だと解釈されてしまうことがありうるので、やや意味が強すぎるようにも思う。実際には、監視社会=自由のない社会、ではない。 この点を理解するうえで、前…

炎上と監視社会

9月になり、多くの学校では夏休みが終わった。 この夏を振り返ると、なんというかブログの炎上が多かった。学生が学校に戻り、下らない写真をアップする暇もなくなれば炎上も減っていくかもしれない。 それは措くとして、すでに数多く指摘されているように…

翻訳の問題

英語での会話を日本語に訳すさい、女性の言葉をどう訳すかはなかなかに難しい問題だ。 よくあるのは、「だわ」とか「なのよ」とか過度に女性的すぎる言葉を使ってしまうというパターンだ。最近では、こういう訳し方は批判されることが少なくない。(たとえば…

経済学の常識?

(過去のツイートに加筆) ネットでは、ときどき「経済学の常識」や「経済学では常識」という表現を見かける。面白いと思うのが、まったく正反対の主張を正当化するさいにこの「常識」が持ち出されることだ。一例を挙げよう。 一例をあげると、財政赤字の解…

文化輸入のエージェント

いま、イギリスでは(ロンドンでは、のほうが正確かも)日本食ブームだ。 アニメとかマンガについては言うほど人気でもないと思うが、日本食に関してはかなり熱い。以前、回転寿司が流行ったことがあったが、いま熱いのは弁当屋である。日本風の弁当を扱う店…

とりあえず釣られてみれば?

この二つのエントリ。ネットで釣られたら負けです 偏見→追記あります ぼくなりに対立点を単純化すると、「ネットの文章は釣りかどうか疑いながら読め」という主張と、「釣りかどうかの判定なんて、その人の偏見でしかない」というもの。 最初に言っておくと…

太宰メソッドとしての教育

(ツイートの加筆・修正) 数年前の話だ。 ある同僚の教員と一緒に帰宅していたとき、「授業ではさんざん企業の批判をしておきながら、学生がいざ就職活動の時期を迎えると、手のひらを返したように就活を応援することの自己矛盾」についての話になった。た…

介護デモクラシーの出現

日本が抱える大きな問題の一つは少子高齢化だ。人口が減少していくこと自体には賛否はあるものの、人口バランスが大きく崩れることはやはり問題だろう。 たとえば、国立社会保障・人口問題研究所の予測値によれば、2040年の人口ピラミッドはこんな感じになる…

ネットが悪い? ユーザーが悪い?

アイスクリームケース事件に端を発した、今回の炎上騒ぎ。ネットでは様々な議論が展開された。 「うちらの世界」「低学歴の世界」が語られるとともに、学歴は関係なく単に非常識な人が問題だという指摘や、ネット以前からいた非常識な人や自警団的な人が可視…

ネットで炎上しないために

一時は沈静化していたようにも思うのですが、最近になってまたネットの炎上が相次いでいます。そこで、以前、学生に配布するために作ったマニュアルの簡易版をアップすることにします。2年ぐらい前に作ったものなので、内容的には古くなっている部分もありま…

脱線する読書

ある研究者のブログを読んでいたときのことだ。 そのブログ主は1日2、3冊という猛烈なスピードで読書記録をアップしているのだが、ある時、そこで「1年に50冊しか本を読めない研究者」のことが批判されていた。要するに「少なすぎる」というわけだ。「私は1…

ネット内における文化摩擦

ここ数日、コンビニや飲食店がらみで頻発するネット炎上に端を発して、学歴論やネット論などがさまざまに展開されている。 昨今の炎上では、ツイッターやフェイスブックなどの写真が掲示板に投下され、それで一気に話が拡大するというケースが多い。なんで、…

ディズニーランド・パリ雑感

メディア研究や社会学では、しばしばディズニーランドが題材になる。空間の意味づけだの、従業員の教育方法だの、とにかくディズニーランドというのは現代社会の縮図というか一側面を非常に明確に映し出していると言われる。 先日、パリのディズニーランドに…

批判と陰謀論のあいだ

陰謀論とは何か。簡単に言えば「世の中を陰で操っている組織が存在している」という主張だ。こう書くと極端な妄想のようにも聞こえるが、ネット内にはライトな陰謀論からヘビーな陰謀論まで数多く存在している。 たとえば、「在日コリアンは電通を通じて日本…

「愛国者」と「売国奴」

「愛国者」とは誰のことか? ネットでその筋の人の書き込みを見ていると「愛国」とか「売国奴」とかいう言葉によく出くわす。「愛国」はまだしも「売国奴」は嫌な言葉だなあと思う。 そもそも、誰が愛国者で誰が売国奴かというのは、ほとんどの場合、自分の…

民主主義の黄昏

ネットでは麻生さんの「失言」が話題だ。たとえ発言を文字起こししたものを読んだところで、麻生さんが何を言いたかったのかは結局よく分からないのではないかという印象がある。 それはさておき、麻生さんの発言をきっかけとしてワイマール憲法やナチス、全…

ショートメールと比較優位

昨日の『メトロ』(ロンドンの地下鉄の駅で無料配布されている新聞)で、ショートメールによる解雇通知に関する記事が載っていた。何の前触れもなく、ショートメール一本で職場にもう来なくていいと言われるという話らしい。 雇用者側としては、解雇の通知は…

最大多数の最大幸福?

「最大多数の最大幸福」という言葉を初めて聞いたのは、高校生のときだったと思う。功利主義なる考え方を簡潔に示すとされるこの言葉、おそらくは世界史か何かの授業で耳にしたのだろう。でも、その言葉が何を言わんとしているのかがいまいち理解できなかっ…

「学問のひと」と政治(追記あり)

学問は「私が一番正しい」ことを明らかにする 世の中には、同じ領域であってもまったく見解が異なる学問的立場というものが存在する。経済学は素人なので、確たることは言えないのだが、いわゆる近代経済学とマルクス主義経済学というのがそれに該当するので…

「ナショナリズム批判」というナショナリズム

むかしから、愛国心(patriotism)とナショナリズム(nationalism)はまったく違うものだとよく言われる。たとえば、ジャーナリストにして小説『1984年』や『動物農場』を書いたジョージ・オーウェルは、愛国心について次のように述べている。 「自分では世…

黒歴史、中二病、ブラック企業

多くの人にはあまり語りたくない恥ずかしい過去がある。ネット用語では「黒歴史」と言ったりする(もともとは『∀ガンダム』に由来する言葉だ)。ぼく自身、黒歴史はかなりあって、以前に書いたエントリの話なんて、まさしくぼくの黒歴史中の黒歴史だ(1)。 …

隅っこの、隅っこの、そのまた隅っこの研究

先日、このようなツイートがRTされてきた。https://twitter.com/akiradicalism/status/357622954697297920 これは小坂井敏晶 『社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』(筑摩選書)からの引用のようだ。本来なら原著から直接に引用すべきな…

絶望から始まるマーケティング

マーケティングというものは、一種の絶望から始まるのではないだろうか。 他人が何を面白がるのかがわからない 何かを作る人間にとっての夢は、自分の作品や商品が万人に受け入れられることだろう。けれども、現実は甘くない。自分が「良い」とか「面白い」…

真夏の恋

小学校6年生の夏、ぼくは何度目かの中耳炎になった。知っている人も多いと思うが、中耳炎の治療はけっこう痛い。憂鬱な気持ちで耳鼻科のドアを開けたぼくの目の前に、待合室で順番を待つ天使がいた。 というのは、むろん嘘だ。しかし、ぼくの目の前に大好き…

尾崎豊と疎外論の復権?(2)

さて、前回のエントリの続きである。 前回のおさらい 前回は、疎外論の影響を受けた管理社会論と尾崎豊の歌との共通点について書いた。 現代社会の仕組みは人間が作り上げたものなのに、あたかも自然なもの、所与のものであるかのような錯覚のもと、人びとは…