擬似環境の向こう側

(旧brighthelmerの日記) 学問や政治、コミュニケーションに関する思いつきを記録しているブログです。堅苦しい話が苦手な人には雑想カテゴリーの記事がおすすめです。

2013-01-01から1年間の記事一覧

尾崎豊と疎外論の復権?(1)

尾崎豊はどうやって「仕組まれた自由」に気づいたのか ネット界隈では尾崎豊の評判は良くない。当たり前だろうとは思う。「♪盗んだバイクで走りだす」と聞かされれば盗まれた側に同情し、「♪夜の校舎 窓ガラス壊して回った~」と聞かされれば「なんと迷惑な……

一人称の呪い

幼児の一人称というのは、多くのばあい、自分の名前である。たとえば、○○ちゃんが「あのね、○○ちゃんね」と自分で言うのがそれにあたる。我が家の長男の一人称もそんな感じで始まった。 幼稚園に入ったあたりからだろうか、その一人称が「ぼく」に変わった。…

「反韓」と「嫌韓」、そして「日本が好き」

「反韓」と「嫌韓」はどこが違うのか 反韓感情について調べているうちに、「反韓」と「嫌韓」は違うのだという説明を見つけた。この二つの違いなど考えたこともなかったので、なかなかに新鮮な発見だ。 反韓(はんかん、英: Anti-South Korean)とは、政治的…

13年目のパディントン

昨日、子どもを連れて、ロンドンの観光に出かけた。いくつかの場所をまわり、夕方過ぎにパディントン駅にやってきた。ところが、移動の途中に下の子どもが寝てしまい、ぼくらは駅のベンチでしばらく時間を潰すことにした。30分ぐらいでようやく目を覚ました…

英語を話したくなくなるとき

(ツイートのまとめ+加筆) 英会話というのは、机の上の勉強というよりも、スポーツに近い部分がある。いくら理屈を勉強したところで、実際に繰り返し何度もやらないと上手くならないからだ。 ところが、とりわけ学校という空間のなかでは、英会話とスポー…

モラル・パニック批判の「危うさ」(2)

さて、前回の続きである。今回はえらく抽象的な話だ。 以前のエントリでも書いたように、モラル・パニックとは、実際にはそれほど重要ではないとされる出来事に関して、マスメディアが大騒ぎし、そこに専門家や政治家が介入して社会問題になってしまうという…

モラル・パニック批判の「危うさ」(1)

この過疎ブログにしては「『若者バッシング批判』の陥穽」にはわりと多くのアクセスが集まり、批判的なコメントもついた。せっかくの機会なので、前のテーマからはかなりズレるのだが、モラル・パニック批判についてもう少し書いてみたい。といっても、以前…

衰える妄想力

大学教員にとっての憂鬱な業務として入試監督を挙げる人は多いんじゃないかと思う。 問題用紙や解答用紙を配布し、受験者のチェックなどを済ませると、もうやることがない。論文を読んだり、仕事をしたりするのはむろんご法度。居眠りなぞ論外。かといって、…

流れ図で考える歴史認識論争

果てしなく続く「歴史認識論争」 日本にインターネットが普及し始めた1990年代後半から、ネット上では第二次世界大戦時の歴史認識をめぐる論争が繰り返されてきた。それから10年以上経った今も、状況はたいして変わっていない。もしかすると、あと100年ぐら…

「若者バッシング批判」の陥穽

大学時代の同期と一緒に飲んだりすると、そろそろ「あれ」を聞くようになってきた。そう、若手社員に対する愚痴だ。 「近頃の若いやつには働くという意識が乏しいんじゃないか?」とかいう話を聞くと、「ああ、ぼくも歳を取ったんだなぁ」などとつくづく思う…

『ワンピース』から考える正しさの源泉

ルフィの「正しさ」はどこから来るのか 以前のエントリでも参照したことがあるのだが、『ワンピース』という漫画は「正しさ」とは何かを考えるうえで、なかなか良い出発点になる。いまは海外にいるし手元にないので、記憶に頼って書くが、まあこんな感じだ。…

相互理解の限界

今朝、ツイッターで「弱者に寄り添え、被害者に寄り添え、といった言葉はぼくは大嫌いだ。完全に寄り添うことなんてどうせできない、ひとの想像力にはどうしたって限界があるんだから」という東浩紀さんのツイートがRTされてきた。 これを読んで思い出したの…

「批判」と「私刑」のあいだ

ブログを炎上させた岩手県議が自殺した。この件で、ネット上では大きな騒ぎになっている。 実際には、果たしてブログの炎上が直接的な動機だったのかはもう誰にも分からない。ただ、少なくとも間接的な原因になった可能性は高いだろう。 この件に関して、す…

相対主義へのフリーライド

2年ぐらい前、「男はこの4コマ漫画における女の子の心情に気づくことができないと失格らしい」という話題がネットで盛り上がったことがあった。 このマンガについて、ぼくは「女の子は自分の女子力に自信がなくて日傘なぞさしてみたが、男の子は女子力云々…

自己決定という自己欺瞞

学生の人生までは背負えない 仕事柄、ぼくは学生と面談することが結構ある。学生の進路についても話を聞くことが多い。そして、少なからぬ学生が将来の悩みを抱えていることを知る。親の希望と自分の希望のズレ。実現可能性が低い自分の夢と食べていかねばな…

ハーバーマスの思い出

昔、ぼくが大学院生としてイギリスに留学していたときのことだ。 ぼくが所属していた大学院には、いろいろな国から留学生が来ており、当時は特に台湾や韓国から来ていた学生が多かった。彼らとは同じ極東アジア系ということもあり、パーティーなどでもよく話…

コミュニティの幻影

ぼくが大学生のときの話だ。 サークルの練習を終えて大勢で帰宅している途中、同期の一人がいかにも深刻そうな顔をして歩いていた。「どうしようかな…」などとつぶやいている。 そこで、ぼくは尋ねた。「どうした?」 すると、その彼は烈火のごとく怒りだし…

日本版リベラル・コミュニタリアン論争

自民党の憲法草案をめぐって、同党の内部でも異論があるようだ。詳しくはこちら。 憲法に「家族の助け合い」を入れるべきか?自民党改憲草案に河野太郎議員が反論 憲法をめぐっては、9条や96条などの様々な争点が存在するが、ここでは少し違った角度から…

ツイッター・トリクルダウン

(ツイートからのサルベージ+α) フォロワーの少ないぼくみたいなアカウントのツイートでも、ごく稀にRTの連鎖が起きることがある(たいした数じゃないけど)。その流れは、だいたい以下のようになる。 ぼくがツイート→ぼくをフォローしているフォロワー多…

「ネット右翼が増えたのはリベラル左翼のせい」という主張について

ものすごく長いので先に結論。「ネット右翼が増えたのはリベラル左翼のせい」という主張を受け入れるのなら、「リベラル左翼」は西村眞悟氏を支持すべきである。以下、本題。 「ネット右翼が増えたのはリベラル左翼のせい」という主張をさいきんよく見かける…

『妖精作戦』から始まる高校生活

前回は(も)かなり固い話だったので、今回は軽い話で。 ネットで話題になっていたこの文章を読んだ。男女の違いはあるものの、「たまに10代の頃を思い出すと私は、本気で鬱になったり『うわああああああ!!!!』って頭を抱えたくなる」という部分には深く…

お父さんが語る売春

広末涼子主演の映画に『バブルへGO!』(2007年)という作品がある。広末が演じる主人公がバブル時代の日本にタイムスリップし、そこで日本経済をめぐる大きな陰謀に巻き込まれる…というストーリーである。 タイムスリップした先の時代で、広末は若き日の父親…

ヘイトスピーチに寛容な言説空間の誕生

―長いので要約― (1)「表現の自由」を維持するためには、社会を構成する一人ひとりが不快な表現に耐えることが必要だが、生存を脅かすような表現を向けられている人たちにまでそれを要求することはできない。 (2)ネット上での「多数派」の形成は歪さが…

マイノリティを「代弁」すること

このまとめ(『彼女たちの売春(ワリキリ)』(荻上チキ著)への違和感)を読んだ。 ぼくは『彼女たちの売春(ワリキリ)』は良い本だと思ったが、やはりこういう感想を持つ人たちもいるんだな、というのが正直なところだ。そこで、ここでは以前からぼくが悩…

なぜ剽窃は起きるのか

(以前のツイートのサルベージ) 論文の剽窃というのは、研究者としてもっともやってはいけない行為だ。見つかれば職を失う。それにしても、なぜ剽窃などしてしまうのだろうか。普通の研究者であれば、剽窃にならない引用の仕方など習得しているはずだ。 と…

躾と虐待

いまからもう25年以上前の話。 当時、大阪の中学生だったぼくはその日、学校の一泊移住に参加した。どこかのキャンプ場に学年全体で一泊する催しだ。 ぼくのクラスの男子生徒は二つのグループに分かれ、それぞれ別のテントで寝ることになっていた。なにせ当…

記憶の上書き

「あんたら、もうお風呂には入ったんか?」 母が優しい声で、お風呂から上がったばかりのぼくの子どもたちに尋ねる。ついさっき、上の娘がお風呂に入るのを嫌がってさんざんごねていたのも、下の息子が脱衣室から素っ裸で飛び出してきたのも、母はしっかりと…