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擬似環境の向こう側

(旧brighthelmerの日記) 学問や政治、コミュニケーションに関する思いつきを記録しているブログです。堅苦しい話が苦手な人には雑想カテゴリーの記事がおすすめです。

ハーフ・アフェー・デイ

学問

 今日、イギリスでのぼくの受け入れ先の大学に行ってきた。ハーフ・アフェー・デーなる教員の会合があるというので、顔を出そうと思ったのだ。

 「受け入れ先」と言っても、完全に放置されている状態なので、他の教員と顔を合わせるのは実質的に今日が初めてである。イギリスに来て半年以上経ったのだが…。

 ともあれ、昼過ぎから始まった会合はランチから始まった。諸々の事情で知り合いが全くいない状況でいきなり大人数のランチ。ハーフ・アフェーどころか完全にアウェーであることは否めない。しかも、当たり前だが会話はすべて英語だ。怒涛のごとくに疎外感が襲う。

 とりあえず、運悪くぼくの隣に座ってしまった人と多少の会話を交わす。だが、分野がまったく違うので、共通の会話が見つけられない。正面に座った人はどうやらぼくの関心のあるテーマをやっているようだ。そこで名前を聞いてみる。

 すると、その正面に座っている彼がぼくの受け入れを承認してくれた人だということが判明した。ずっとメールでやり取りしていたし、その人はぼくがイギリスに来る直前に研究休暇で別の国に行ってしまっていたので、顔も知らなかったのだ。

 しかし、その人もあまり活発に話すタイプではないようで、あまり話が弾まない。なので、仕方なく食べることに専念する。他にやることないのだから仕方がない。時間を潰すために食べているわけだから自ずと食べ過ぎる。それでもただただ食べる。時間が経つのが遅い。

 それにしても謎だったのが、ランチの後の予定である。他の人に何をするのか聞いても、「ぼくも知らない」と言うばかり。どういう会合なんだ、いったい。

 ようやくランチが終わり、別室へと移動した。テーブルごとに数人のグループに分かれて着席する。最初に責任者らしき人が大学および研究科の現状についての説明を始めた。内輪の話を聞くわけだから、居心地はすこぶる悪い。

 しかし、話自体はなかなかに興味深い。イギリスの大学ランキングでも上位に位置し、世界の大学ランキングにも顔を出す大学だけあって、ランキングをいかに上げていくかが語られている。自然科学は評価が高いが社会科学がいまいちである、博士課程の学生をもっと増やそう、研究費を獲得しよう、みたいな生々しい話が続く。日本でのぼくの本務校とはかなり違う雰囲気だ。しかし、教員たちはそれほど熱心には聞いていない。その気持ちはなんとなくわかる。

 話が終わると、ようやく会合の本番が始まった。まず、各教員は自分の名前と専門分野、研究内容が書かれたカードを渡される。なお、ぼくは訪問研究員なので当然、そのカードはない。いや、所詮はよそ者だし、それは別に構わない。むしろ、こういう状況では、自分のカードなど無いのが当然だというような顔をしていることが重要である。

 話を戻すと、カードを渡された教員たちは、そのカードを使いつつ、同じテーブルの人に自分の名前と研究内容を1人3分で紹介する。ここは規模の大きな研究科で、法学、政治学、社会学の教員が混在していることもあって、教員同士のつながりがかなり希薄なようなのだ。

 カードを持たないぼくは、ここでタイムキーパーとして獅子奮迅の活躍をする。iPodのタイマーを駆使し、厳密に3分間を計測する。当然、自己紹介をするつもりなどなかったのだが、結局は研究の紹介をする羽目になる。

 次に、それぞれのテーブルに座った教員の研究に共通するキーワードを1つ考え、それをテーブル上の大きな紙に書くことが求められた。もちろん、そのキーワードを決めるまでに、個々人がいろいろとアイデアを出しあう。ぼくの座ったテーブルのキーワードは“identity”だった。

 キーワードが決まったら、全員で他のテーブルのキーワードを見て回る。“power”、”choice”、“state“、”regulation“、”transgression”などのキーワードが並ぶ。そして、それらのなかで自分にとって興味深いキーワードが書かれたテーブルに着席し、今度は自分の研究とそのキーワードがどのように関係するのかを一人ひとり話していく。しばらく経ったところで、再び席替えタイム。さっきとは違うキーワードのテーブルに着席し、再びそのキーワードと自分の研究との関係を話すわけだ。

 ぼくは、最初は“identity”のテーブルに座り、次に“state”のテーブルに座った。最初のテーブルでは、ナショナル・アイデンティティ、ヘイトクライム、パーソナルアイデンティティ、ジェンダーなどのテーマについて各人が話をし、その度に簡単な質疑が行なわれる。次のテーブルでは、EU、イギリスの左翼、コスモポリタニズムなどのテーマが語られた。

 ぼくは、最初のテーブルではわりときちんと話せた(と思う)のだが、次のテーブルでは話している途中で話が破綻してしまった。馴染みの薄いテーマをいきなり英語で話そうとするとやっぱり駄目だ。途中で英語がまったく浮かばなくなり、あえなく撃沈してしまった。こうしてぼくの黒歴史に新たな1ページが加わったのである。うああああああああああ。

 それが終わった後にはお茶の時間となり、再び居心地の悪い時間を過ごす。聞けば、その後は学内のコンピュータ・システムの話らしく、ぼくにはあまり関係ないので、そこでおいとますることにした。正直、ホッとしたことは告白せねばならない。

 ぼくの境遇はさておき、こうした会合が行われた背景には、教員間の親睦を深めるという目的のほかに、個々の専門領域を越えて教員同士のコラボレーションを生み出したいという発想があるのだと思う。実際、専門領域も方法論も大きく異なる教員たちが共通のキーワードを使って自分の研究を語るというのはなかなかに面白い試みだった。もちろん、異なる領域の教員が実際にコラボレートすることは難しいだろうが、違う観点からの話には学ぶ点が少なくない。

 というわけで、ぼくの黒歴史に新たなページが加わったとはいえ、なかなかに有意義な一日だったのではないかと思う。というか思いたい。