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擬似環境の向こう側

(旧brighthelmerの日記) 学問や政治、コミュニケーションに関する思いつきを記録しているブログです。堅苦しい話が苦手な人には雑想カテゴリーの記事がおすすめです。

翻訳の問題

 英語での会話を日本語に訳すさい、女性の言葉をどう訳すかはなかなかに難しい問題だ。

 よくあるのは、「だわ」とか「なのよ」とか過度に女性的すぎる言葉を使ってしまうというパターンだ。最近では、こういう訳し方は批判されることが少なくない。(たとえば、ここを参照)とはいえ、女性の言葉をまったくの男言葉で訳してしまうのには違和感がある。

 他方で、敬語の問題もある。英語だと相手を敬う言葉はあっても、いわゆる敬語なるものはない。だが、日本語に翻訳するときに敬語をまったく使わないのは、やはり不自然だろう。たとえば、上司と部下との会話を、両者があたかもタメ口で会話をしているように訳すのはおかしいと思う。もっとも、常に敬語というのも状況によっては変になってしまう。

 前置きが長くなったが、ここからが本題である。

 ぼくがいま仕事場にしている大学図書館には併設のカフェがある。ここでは数人の店員さんがいるのだが、そのなかにおそらくは責任者と思しき女性がいる。毎日のように通ってくるぼくの好みも覚えてくれている。

 しかしだ。この女性、客を見ても、まったくニコリともしない。まあ、イギリスに来ると、客商売であっても「スマイルは0円」ではないということを度々痛感させられるのだが、それにしてもこの女性は眼光が鋭い。

 まず、ぼくの顔を見るなり発するのが、”Flat white?”という言葉だ。Flat Whiteというのは、エスプレッソベースのコーヒーである。ぼくはこれを好んで飲んでいる。で、普通に訳すとなると次のような感じになるだろう。

 「フラット・ホワイト・コーヒーですね?」

 しかし、この女性店員の場合、ぼくはあえて

 「フラット・ホワイト・コーヒーでいいんだな?」と訳したい。

 また、ぼく以外のお客さんには、”What are you coming for?”と尋ねる。これを普通に訳すとこんな感じだろうか。

 「なににいたしましょうか?」

 しかしだ、ぼくはあえて次のように訳したい。

 「何しに来やがった、テメーは?」

 いや、実際そんな感じなのだ。そして、ぼくは決してこの女性店員が不快なのではなく、むしろシビれているのである。

 今日なぞはパスタを頼んだだら、半身だけぼくのほうを振り返りながら、

 「パスタにチーズは入れんのか?」

 と尋ねてきた。かっこいい。ぼくは"Yes, please.”と答えたのだが、この場合は「はい、よろしくお願いします」と訳すべきだ。ぼくは客ということになっているのだが、ここではそんな些細なこと関係ないのである。

 というわけで、女性の言葉だからといって、自動的に「だわ」や「のよ」などと訳すべきでもないし、店員の言葉だからと言って勝手に敬語にするのも良くない。訳語を充てるさいに重要なのは、文脈であり雰囲気であり関係性なのだ。